議会質問

HOME > 議会質問 > 2011年決算特別委員会 意見開陳(全文)

2011年決算特別委員会 意見開陳(全文)

 日本共産党杉並区議団を代表して、平成22年度杉並区一般会計他各特別会計の歳入歳出決算に対する意見を述べます。
 当該年度は、日本全体が閉そく感に覆われた年でした。前年に発足した民主党政権は掲げていた公約を次々と投げ捨てたばかりでなく、高齢者の医療費負担増や年金の引き下げ、消費税の増税方針を打ち出すなど、将来不安を増大させました。その一方、大企業、大金持ち優遇政治を継続し、自民党政治となんら変わらない姿をあらわにしました。「いったい何のための政権交代だったのか」国民が民主党に寄せた期待は幻滅から怒りへと変わり深い閉そく感が広がりました。
 労働者の賃金が長期にわたって減り続けていることも閉そく感を広げたもう一つの要因でした。民間企業で働く人の賃金は12年間で平均61万円も減りました。働く貧困層の広がりは、家計の消費と内需を冷え込ませました。高齢者の負担も上がり続け、資料によれば、年金収入月20万ほどの夫婦の場合、医療保険料、介護保険料、住民税、所得税の合計金額が小泉構造改革以前は年間およそ11万円だったものが、当該年度はなんと25万8千円となりました。こうした状況のもと、杉並区の税や国保料の収納率は4年連続で低下し、収入未済額、不能欠損額は各会計とも増加しました。
 区政においては、山田前区長が参院選出馬を理由に辞任し、7月の区長選挙で田中新区長が誕生しました。11年間続いた山田前区政は、施策の廃止や有料化、民間委託の推進、侵略戦争賛美の歴史教科書採択の強行など、まさに自治体を民間営利企業の利益追求のための市場化へと導く新自由主義の政治そのものでありました。田中新区政には、山田前区政のこうした数々の〝負の遺産〟を一日も早く是正し、福祉の向上という自治体本来の責務を基本にすえた区政運営が求められました。
 日本共産党杉並区議団は、田中区政が区民のなかに広がる貧困と格差を認識し、介護や保育、雇用など切迫する区民の願いにこたえるために力を尽くしきったのか、安全なまちづくりにつとめたのか、民主的で子どもたちが健やかに成長する教育の環境整備を進めたかという観点から、決算審議に臨みました。
 最初に区長の政治姿勢について述べます。
 区長は、山田前区長のトップダウンによる区政運営を批判し、区民や職員の声を重視しボトムアップの区政運営をめざすと表明、「減税自治体構想」を凍結し、区長多選自粛条例を廃止しました。こうした迅速な対応についてはおおいに賛同するものです。しかし、深刻化する区民のくらしの実態については、一般会計予算の1割を生活保護費が占めていることを強調するだけで、十分な分析がありません。また、山田前区長が、計画以上の区債の繰り上げ償還に巨額の税金をつぎ込み、必要な福祉や介護の施策をおざなりにしたことについて「そうした指摘はあたらない」との認識を示したことも賛同できません。
山田前区政のもとで、1000名以上の職員削減が進められました。区は大きな財政削減効果をうみだしたと繰り返し述べていますが、一方で非常勤職員の増加、民間委託や指定管理者制度の導入で官製ワーキングプアを率先してつくりだしたことは重大です。サービスの質は維持されていると言いますが、民営化された障害者施設では職員の入れ替わりが激しく質が後退しているとの声も寄せられています。ひとりひとりの仕事量が増え健康を害する職員を増加させてきたことは数年来指摘してきたところです。福祉事務所や子育て支援センターなどの相談は激増しています。大幅な増員を求めるものです。
 「区民との協働」の名のもとに、区のさまざまな事業に民間企業が参入し、セシオン杉並での賃金未払い事件や地域図書館で低賃金で退職者が続出するなどという事態が発生しました。そもそも企業は営利を追求するところであり、自治体のサービスの担い手としては基本的になじみません。田中区長も「新しい公共」の推進で、民間企業の活用を推進すると述べていますが、いっそうの職員削減による労働強化や官製ワーキングプアを生み出すことにつながりかねません。「質の高いサービス」というなら公的責任がますます重要であり、さらなる民間委託はすすめるべきでありません。
 災害時の助け合いや高齢者の安否確認事業では、自助や共助がことさら強調されています。地域での支えあいや助け合いは大事ですが、そのことと行政の責任を果たすことは次元が違う問題です。共助を理由に公的責任をあいまいにすることは許されません。
 杉並版「事業仕分け」は対象事業の選定基準が不鮮明であるとともに、外部評価委員の議論だけで結論を出すというやり方は乱暴であり容認できません。今委員会で、事業仕分けの結論が区の最終決定ではないと答弁がありました。ボトムアップの区政運営というなら、区民の声を聞く機会を設けるべきです。
 次に、区民生活をめぐる個別の課題について述べます。
 まず、福祉についてです。
 所在不明の高齢者問題が全国で相次ぎ、杉並でも113歳の女性の所在が不明だったことがあきらかとなりました。要因は様々だとしても、自治体の福祉施策が後退するなかで、高齢者を社会的に孤立させない機能の低下によるものであることはあきらかです。区長は安否確認の検討会をたちあげ、おたっしゃ訪問の実施を発表しました。この事業自体は重要ですが、中心的な役割を担うのは地域包括支援センターや民生委員で民間まかせとなっています。老人福祉法では市町村の高齢者の実態把握の責務を明記しており、区職員も直接高齢者を訪問し公的責任を果たすべきです。
 特養ホームの待機者は1800人にのぼりました。施設がたりず、通所介護事業所で実施している宿泊事業−お泊りデイサービスを利用せざるを得ない高齢者が杉並区にも存在していることが明らかとなり、プライバシーや防火・防災対策、緊急時の対応も不十分など問題点がうきぼりとなりました。特養ホームの整備促進を促進するとともに、グループホームや小規模多機能、ショートステイなど、総合的な施設拡充を急ぐよう求めます。
 来年4月からの第5期介護保険事業計画の策定が進められています。保険料の引き上げをおさえ、低所得者に対する保険料や利用料の軽減制度を拡充すること、「介護予防・日常生活総合事業」の導入を行わないことをあらためて強く求めます。
 障がい者のショートステイ不足も深刻です。昨年度も指摘しましたが、ミドルステイやグループホームなどもあわせた施設整備計画を早急に持つべきです。災害時の救援体制の強化も最優先で取り組むよう求めます。
 今年4月の保育園待機児童は71人でしたが、これは認可外保育施設に入所した児童をのぞいた数であり、第一次の入園申し込みでは、1000人以上の児童が認可保育所へ入れないという事態となりました。山田前区政は、待機児解消をもっぱら認証保育所や区保育室などに頼ってきました。圧倒的多数の保護者の願いは認可保育所への入園です。田中区長は「認可保育園の必要性は認識している」とし、増設の方向を表明しました。総合計画の策定を待たず、早急に認可保育園大幅増設に踏み出すべきです。
 地域主権改革一括法の成立により、保育所の面積などを都道府県で定めることになりました。いまでさえ国の最低基準は低く、引き上げこそ求められているのに「緩和するかどうかを独自に判断できる方向性は正しい」と引き下げを容認するような区の姿勢は重大であり見過ごすわけにはいきません。たとえ東京都が国基準から引き下げることになっても、現行の基準を維持すべきことを強く求めます。
 政府がすすめる「子ども・子育て新システム」は、保育所探しは親の自己責任、行政は保育の必要度を認定するのみとなり、まさに保育の介護保険化です。公的責任を投げ捨てるものであり、まして待機児解消にならないことは明らかです。新システムを肯定する区長の姿勢は認められません。
 経済情勢の悪化で生活保護受給世帯は増加の一途をたどっています。低廉な公営住宅に入居できれば、あるいは住宅の家賃補助があれば生活保護にならなくてもすむという区民は少なくありません。しかし、区は民間のストックがあるからと新規に区営住宅を増やさないだけでなく、高齢者住宅の増設については区営住宅の高齢者枠を増やしたなどというだけで、区民の切実な要望に全くこたえていません。セーフティネットとして公営住宅の増設や低所得者に対する家賃助成を実施すべきです。
 記録的な猛暑が続き、杉並区でも熱中症が原因とみられる高齢者の死亡が報告されました。生活保護を受給している高齢者は老齢加算が廃止されてから食事をきりつめるなどぎりぎりの生活を強いられています。電気代の補助など対応を求めます。
 国民健康保険料の収納率は過去5年間で最低となりました。資格証の発行は907件、差し押さえは943件にのぼっています。払いたくても払えない真に困窮している区民の実態に目を向け、必要な施策につなげることに力を注ぐべきです。今年度国保料の算定方式の変更で各種控除が適用されなくなったため、それまで控除を受けていた障害者世帯などの負担が増えました。2年間の経過措置後の対応について何ら対策を考えていない区の姿勢には、本気で区民のくらしをまもる構えがなく容認できません。区独自の保険料軽減策を実施するよう求めます。
 経済・雇用対策について述べます。
 商店や中小業者の営業も厳しさを増す一方です。地域活性化という点でいえば、全国に広がっている住宅リフォーム助成制度が大きな効果を発揮しています。わが党はこの制度の実施を求めましたが応じませんでした。中小業者対策の取り組みは不十分といわざるをえません。
 就労支援についても、第二のセーフティネットといいながら、思いきった施策が講じられていません。23区で唯一就労支援課を設置している足立区を参考に、区庁舎へのハローワークの出張所的機能の設置、ひきこもりやニート対策など取り組みを強化すべきです。
 一昨年に発生したセシオン杉並での賃金未払い事件を受け、区は当該年度、労働法令遵守の確認制度を実施し、今年度からは最低賃金を明記した確認書の提出を事業者に義務付けました。一定の前進ですが十分とはいえません。業務内容に応じた適切な賃金が支払われているかなど、労働環境をチェックするシステムを確立し、公契約制度の導入を急ぐべきです。
 防災対策について
 3月11日に発生した東日本大震災は、日本の歴史の中でも未曽有の大災害となりました。区が災害時相互援助協定を結んでいる福島県南相馬市への職員派遣など迅速に支援を行ったことには敬意を表するものです。杉並区内では東京ガスが測定した63か所のうち24か所で震度5強が観測され、屋根瓦の落下や塀の倒壊など多数の建物被害が発生しました。東京都の建物倒壊危険度調査では危険度の低い地域となっていながら、被害認定が他の地域に比べて多い結果なっったことについて、しっかりと分析し対策をたてるためにも、都に調査を求めるべきと要望しましたが、区はかたくなに拒否しました。積極的に区民のいのちや財産をまもるという真剣さがありません。震災対策は区民意識調査でも最も要望の強い施策です。災害に強いまちづくりを行政の課題の土台に据えるべきとあらためて強く訴えるものです。
 福島第一原発事故による放射能汚染は都内にも及んでいます。区も区民の要望にこたえ、全区的な線量測定を実施したことは評価するものです。わが党区議団が8月から現在まで区内の公園など約130施設、延べ900箇所を独自測定した結果、区の測定では見つからなかったミニホットスポットが発見されました。こうした高線量部分について、区が再測定し、除染を行うことを決定したことは評価するものですが、区の線量測定がまだまだ不十分であるということでもあります。 
 そもそも、放射能汚染対策は、放射能汚染から区民の健康被害を軽減する事を最大の目的として行わなければなりません。特に放射線に対する感受性が強い子どもたちの未来を守るためにも、区には今以上の放射能汚染対策が求められています。全小中学校、保育園、幼稚園、公園で高線量部分がないかしらみつぶしに探し出し、区独自の除染基準を設定し、除染を行っていくことを求めます。
 脱原発を求める世論が広がっています。区長は原発依存から将来的には自然エネルギーへの転換が必要との認識を示したことは重要です。区として国に脱原発を求めるとともに、自然エネルギーの普及拡大というなら、太陽光発電機器への助成を拡充げきです。
 外環道路計画について
 道路交通対策特別委員会で、計画予定地周辺の将来の交通量予測の資料が示されました。それによると、外環道路を整備することにより、周辺道路404、6キロが合計45分短縮されるとされています。これは1キロに換算するとたった6,6秒です。そのわずかな時間を短縮するために1メートル1億円もの莫大な税金を投入することは認められません。ましてや大震災の復興財源が必要なときです。区長は災害時の輸送のためにも必要な道路と繰り返し主張していますが、災害がおこったとき果たして使えるのかどうか検証もされていません。あくまで推進しようとする区長の姿勢は容認できません。外環の2の話し合いの会の運営も問題であり、改善を求めます。
 最後に教育について述べます。
 当該年度、教育分野では、いくつかの重要な施策が進められました。まず新たに2名の教育委員選任が行われ、直後に現場や保護者の声に基づいた小学校教科書採択が行われました。区民から批判の強かった師範館の塾生募集が止まり、9月には全小中学校普通教室のエアコン設置が表明され、教育環境の整備が進むこととなったことは重要な成果です。さらに特別教室へのエアコン設置も急ぐよう求めます。
 しかしながら、これをもって区の教育行政を評価するわけにはいきません。区立幼稚園の子供園化はまったく納得のいかない説明を区が押し通すという山田前区政となんら変わらない姿勢が続いています。今議会にも来年度の募集、子供園の在り方について保護者からの緊急の陳情が議会に出されていますが、こうした声に、区長とともに議会も耳を傾けねばならないと指摘するものです。
 小中一貫教育はいよいよ施設一体型一貫校という取り返しのつかない方向に突き進んでいます。すでに実施された各自治体では多くの問題点が指摘されており、こうした実態に区教委も区長も目を向けるべきです。教育理念もなにもなく、子どもと地域を実験台にするかのような小中一貫教育はやめるべきです。
 事業仕分けの結果に基づいて南伊豆健康学園の廃止が方針化されました。健康学園の是非を議論するに足る経験も知識もない外部評価委員によって区教委の廃止方針を議論させるやり方は到底認められるものではありません。
 区民に痛みを押し付ける教育行政が進む一方で、区民から強く求められている済美養護学校の劣悪な教育環境の改善も、済美教育センターの教育相談機能の強化も行われませんでした。一定の見直しを口にしていた学校選択自由制や学力テストについても議論が進んでいません。こうした区教委や区の教育行政を決して認めるわけにはいかないということを強く指摘するものです。
 また、学校の用務員を業務委託としていることについて、違法な偽装請負となっているのではないかという指摘も当該年度の議会で議論されました。早急に事態の改善を求めるとともに、本来、教職員だけでなく、給食調理員や栄養士、用務員に至るまで一丸となった教育環境が求められる学校現場に、正規・非正規の雇用形態の違いをうみだしてはならないということも指摘しておきます。
 以上、述べてまいりました理由から、認定第1号平成22年度杉並区一般会計歳入歳出決算、認定第2号杉並区国民健康保険事業会計歳入歳出決算、認定第3号杉並区老人保健医療会計歳入歳出決算、認定第4号杉並区介護保険事業会計歳入歳出決算、認定第5号杉並区後期高齢者医療事業会計歳入歳出決算の認定に反対します。
 最後になりましたが、多くの資料請求にこたえてくださった職員の皆さんに心から感謝を申し上げ、意見の開陳を終わります。